[日記]思い出すこと①

これまで通っていたスイミングスクールから、
新しいスイミングスクールに通い始めた日。
初めてのプールで、吐きそうなくらいの泳ぎ込みをした後、先生が指示した人とタイムを競う、タイムトライアルがあった。

私と一緒に泳ぐのは、少し背の低い女性だった。
ここに来るのが初めてだから、名前もどんな人なのかも分からない。
泳ぐ順番が来るまで、プールサイドで二人で横に座って待っていた。
すると、彼女が何か私に話しかけた。
だけど、何を言っているのか分からなかった。
初めてのプールの反響音に耳が慣れていなかったのかもしれない。
それ以外に彼女の滑舌が少し悪いように感じた。
「もう一回言ってください」と言ったけど、今度はいきなり、私の膝に文字を書いた。
「なんだいきなり?!」と思いながらも、何と書かれた文字なのか考えてみる。
それでも分からない。
「分かんない、もう一回!」と聞いた時、彼女は突然立ち上がって、トイレに向かった。

一瞬何が起こったのか分からなかった。
その後すぐに先生が来て、「スタートに着きなさい」と言った。
でも、彼女がいない。
遅れてトイレから出てきた彼女に先生がとても怒っている。
ゴーグルが曇ってよく見えないけど、怒鳴り声ははっきり聞こえてくる。

怒られた原因が私にあるのだろうか、彼女はスタート台に立ってからもずっとこっちを見てきた。
「何か悪いことしたかな?」と考えたけど、よく分からない。

スタートして全力で泳ぐ。壁にタッチして、先生がタイムを声と指を使って伝える。確かにここのプールはよく反響して、声が真っ直ぐに届いてこない。指を使ってタイムを伝えてくれるのは、とても分かりやすかった。

プールを上がって、彼女が近づいてきた。
「速かったね」と拍手のようなジェスチャーをしてくれた。彼女は怒っていたわけではなかった。そういう表情だった。
「ありがとう」と言った。
その時、彼女は自分の耳を指差して、その耳元で、小さく虫を払うような手の動きをした。

「耳、NO…」

彼女は耳が聞こえなかった。

そうだったのか。
彼女と横に座ってから不思議に思った出来事がつながり始めた。

私の膝に文字を書いたのは、そっちの方が伝わりやすいと思ったから。

先生に怒られたのは、私に先生にトイレに行っていると伝えてほしかったけど、伝わらなかったから。

飛び込みの時に私の方を見るのは、先生の声が聞こえなくて、横にいる私の動きを見ながらでないと飛び込めないから。

タッチした後、先生がタイムを指で伝えるのは、先生が声に出すタイムが聞こえないから。先生は私のタイムを指で伝えていたわけではなかった。

小学5年生の春、初めての経験だった。

〈続〉

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